毎度!ねずみだ。
先日、友人と呑んでいた時の事。この「鼠丼」にもちょくちょく登場するこの友人とは16歳の頃から一緒にバンド組んでいて以降、ずっと吞んでいる。ここ何年かは月一のペースで。いや、高校生の頃は吞んでないけど。
その居酒屋の隣には30歳くらいの女性二人。さらに少し離れた席に60代半ばくらいのおっさん二人。他にも客が何人かあちらこちらのテーブルに。
我々は例によって「最近の音楽はあーだこーだ。」と盛り上がって呑んでいた。毎回同じ。結局自分たちが聞いてきた音楽こそが最高なのだ。うん、間違っているよ。どんな時代の音楽でも「良いものは良くいつまでも残る。良くない音楽は後世に残らない。」それだけの話。
隣のテーブルの若い女性はでかい声で、いかに自分の毎日が華やかで彩られたものかを自慢しあっている。まあ羨ましい事ですねえ。
どこどこに行って何を食っただとか、SNSにどんな写真をアップしただとか、会社で何人の男に言い寄られているか、だとか。互いに相手の話なんか聞かず、ただ自分の生活を自慢してマウントをとりたいだけ。
どうでもいいけどお姉さん達、声がでかすぎるんですけど。華やかな生活の自慢はもう少し小さな声でお願いします。そもそも華やかな生活している女性はこんなしょぼい居酒屋では呑まないんじゃないの。もっと高級な店に行けよ。
向こう側の60代半ばくらいのおっさん二人もなんだかんだ、うるさい。社会だか会社だか、それとも政府に対してだか分からないが、ずっと文句を言っている。(往々にしてそうだが)さっきからずっと同じ話がループしているのには気づかないらしい。
と、そのおっさんのテーブルで「粗相」があった。「ガチャン」と大きな音。一人のおっさんが持っていたグラスを落としてテーブルの上の料理にぶちまけてしまったようだ。自分のズボンが濡れないように二人とも慌てて立ち上がる。
立ち上がろうとするその瞬間にテーブルを引っ掛けたらしく、今度は料理の皿がガチャガチャ音を立てる。店員のお姉さんが慌てて走って来て、「大丈夫ですかあ?」とテーブルの上を拭き始める。おっさん二人は怒られた小学生のように、店員さんがテーブルや床を拭くのをしょぼんと見ている。
「あ~あ、無様!」
と、隣のテーブルの女性の一人が言う。それを聞いたもう一人が「確かに。歳はとりたくないよね。」と返す。周囲に聞こえるか聞こえないかの、微妙な音量。
そんな事を言わなきゃいいのに、と思っていたら案の定友人が「そういう事言うなよな~。」と私だけに聞こえるように。
やはり「あ~あ、無様。」という声がおっさんにも聞こえたのだろう。おっさん達は急にトーンダウンしてしまった。若い女性も自分たちの声がおっさんに届いてしまい、まずいと思ったのかもしれない。話し声が小さくなってしまう。
そして程なく女性二人は居づらくなったようで、早々に居酒屋を出て行ってしまった。多分SNSに載せるにふさわしい飲み屋にいったのだろう。
程なく居酒屋には喧騒がもどる。
その時。
件のおっさんのうち、一人が「無様で結構!40年も頑張ってきたんだ。歳をとればみんなこうなるよ!」と半分は自分に向けて、あとの半分は周囲に向けて言うのが聞こえた。相方のおっさんも「そうだ!無様だろが不格好だろうが、頑張ってきた証拠だ。恥ずかしくはないよ。」と豪快に笑う。
私と友人は互いに目くばせをして「確かにそうだよな。昔はああはなりたくないって笑ってたおっさんに今自分たちがなっている。傍から見れば無様で不格好かもしれん。でも仕事に邁進してきた自負はある。歯を食いしばって修羅場を乗り切ってきた。」と話す。
自分たちがまだ20代や30代の頃。
会社内の定年間際のおっさん連中のダメダメっぷりを見て、「ああはなりたくない。」と思って。そして今や、自分たちがそういう歳に。会社の若い連中は私達を見て「歳はとりたくないね。」と思うだろう。
しかし、先ほど「粗相」をしたおっさん達が汗水垂らして立ち上げてきた日本という国で、私達は呑気に育ってきた。そして私達がさらに良くしようと頑張ってきた社会で、彼女達若い連中がのうのうと若さを享受している。それは紛れもない事実だ。
身を粉にして働いてきた結果、身体の色んなところに「ガタ」が来た。外見は衰え、動作は緩慢になり。あっちこっち痛いし物忘れも始まりトイレが近くなった。飲み屋では手を滑らせグラスを落とす。挙句の果てに、なんの関係もない若い奴から「ブザマ」と言われた。まあ言い訳はしない。働いた代償として僅かな金とささやかな幸せを手に入れたが、失ったものも大きかった。それを「無様」と言われても「はい、ご指摘の通りです。」と首を垂れるのみ。
だけど。逆に先の女性に言ってやりたい。「じゃあ、お前らこれから30年、日本を支えられるのかよ。」
そんな事を話しながら、先のおっさん二人に「無様で結構!頑張ってきた先輩に乾杯!」とグラスを掲げる私と友人。件のおっさん達はまたさっきと同じ話を始める。
じゃ、また。